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【No.41 平成29年9月】 「犬歯と食性」
2017年9月19日 さて、霊長類のなかでもメガラダピスの犬歯の大きさは目をひきます。
チンバザザ博物館所蔵のメガラダピスの頭骨をできるだけ臼歯の表面が見えるように撮影したものです。なんといっても大きな特徴は、上顎の切歯がないことです。これはウシ類と同じで、鼻の部分の骨(実際には上顎骨で、鼻はさらにこの先に軟骨としてあり、またその下に唇部分がやはり軟骨で板状に作られていたはずです)が大きく前につきだしているはずです。アフリカ水牛の鼻先を見て下さい。こんな鼻と口の感じで、上顎から犬歯が突き出している感じです。
この上顎切歯のない頭骨をオランウータンや霊長類の中では犬歯が目立つニホンザルやヒヒと比べて見ましょう。霊長類ではオスの犬歯はきわだって大きいのですが、なかなかいい標本がありません。
オスの上顎犬歯が大きいことが分かります。
こちらはメスで上顎の犬歯はそれほど大きくありませんが、犬歯が他の歯よりも大きく尖っていることが分かります。 実はマダガスカルの原猿類の中では、上顎切歯がないものがいます。イタチキツネザル科です。これは絶滅したメガラダピスと同じ科ではないか、とさえ分類されたほどで、霊長類では珍しい歯式なのです。 私の手元の写真を調べたのですが、犬歯が口の外に飛び出しているものはありませんでした。しかし、どこかで見た、確かに見たなあ、と図鑑を探しまわり、コンサーベーションインターナショナルが出したLemurs of Madagascar の第三版304〜307頁のゾンブチイタチキツネザル(Lepilemur hubbardorum)で見つけました。ゾンブチは南西部の大森林で、このあたりはジャイアントアイアイを捜索したところなので、なつかしい。
メガラダピスの全身骨格を先日訪れたアメリカ自然史博物館で見つけましたので並べてみました。 ゾンブチイタチキツネザルの写真では、ちょっとわかりにくいですが、唇から犬歯がのぞいていますね。この種の体重は990グラムですから、60〜80キログラムになったメガラダピスはこの形で大きなものと想像しても、それほど間違いではないしょう。目と耳の頭への割合が小さくなるので、顔の全体の印象は変わるでしょうが。このイタチキツネザルは成長した葉食者で、そこが若芽食者のシファカと違うところです。 最初のメガラダピスの頭骨写真の臼歯を見れば、裂肉歯ではないことが分かり、上顎切歯がないことから、現在のイタチキツネザルと同じく成長した葉を食べていたことが分かります。そして、その足と手の形をみれば、樹上性であることが分かります。 樹上性霊長類の中で最大種オランウータンの手と足もアメリカ自然史博物館でしっかり撮影できました。
オランウータンの足の骨の構造AMNH まるで六本目の指のように奧に見えているのは、踵骨です。パンダの七本目の指のように、オランウータンの足の構造は、しっかり枝をつかむことに特化していることが分かります。 このアメリカ自然史博物館の標本のように生きた骨の配置構造が明確に示されていると、動物の体を理解するのに、非常に役立つ。しかも、背景を無地にしてくれているので、写真としても分かりやすい。博物館展示のお手本ですね。 この手足の骨の構造を同じAMNHのメガラダピスの全身骨格の手足と比べて見てください。樹上性に適していることが分かるでしょう。そのことを白い○の丸輪で「展示物のここに注目」となっているのも、説明の丁寧なところです。 さて、最後の問題ですが、大きな犬歯はオスメスで違いがある場合は、外敵への威嚇用であったり、オス間の闘争武器なのですが、メガラダピスの場合はイタチキツネザルと同様、そういう使い方もしますが、食物用だと説明できます。 ゴリラの大きな犬歯はそこにすき間ができるので、ツルをここに通して、皮を剥き、固い皮を団子のようにまとめて、口に入れて食べます。そのようにメガラピスは大きな口の先にある唇と長い上顎の犬歯で枝を引きよせ、そのまま葉をまとめて口に入れていたのではないでしょうか?イタチキツネザルは小型なので、木の葉を一枚一枚選び取って食べるのですが、メガラダピスのように大きな体を成長した木の葉で維持するためには、効率的な葉の集め方が必要だったでしょう。 ちなみに、オランウータンの大きな犬歯は、ボルネオの森の特別な食べもの、巨大で固い殻をもつドリアンやジャックフルーツを裂き割るための道具でした。 Copyright(C)2002-2024 Nihon Ayeaye Fund. All rights reserved. |